どくん…!


心臓が鈍く音を立てた。

コツコツと歩み寄る伯爵に、警戒を強める。

すると、目の前で立ち止まった伯爵は、私より頭一個分高いところから私を見下ろした。

するり、と背中に回される手に、ぞくり、とする。


(…っ!)


距離を取ろうとすると、伯爵は興味を惹かれたようににやりと口元を緩めた。


『このパーティに来ておきながら、私に媚びない女がいるとはな。…容姿と財産目当てで集まった候補よりよっぽどいい。』


伯爵の仮面の奥から灰色の瞳が見える。

私をまっすぐ見つめる彼は、視線を逸らそうとしない。

すると、次の瞬間。

伯爵は思いもよらない爆弾発言を投下した。


『…気に入った。貴様を今宵の“エサ”にしてやろう。』


「はい?!」


『安心しろ。私の牙を受け入れたものは、全員私の花嫁だ。』


(嘘でしょう…っ?!)


私は、慌てて声をあげた。


「ま、まさか、私の血を吸うつもり…?!」


すると、伯爵はさらりと答える。


『当然だ。貴様も、私の花嫁になりたくてここに来たんだろう?』


「違いますっ…!」