「これで、心置きなく帰り道を探せるね。」


ウサギさんは、満足げにそう言った。


(確かに、エラの姿で居られれば、すぐに人間だとバレることはなさそう。)


彼は、にこりと笑って続ける。


「帰る時は、僕が人間界の時間をいじってアリスがこの国にきた時間に戻してあげるから、心配いらないよ。」


(…!すごい…!さすが魔法使い!)


「君のお母さんも散歩ついでにコンビニに寄って帰ってきたぐらいにしか思わないだろうね。」


そう言って腕組みをするウサギさんに、私は目を細めた。

国境どころか時空を超えたことを、“コンビニに寄り道”と同等にされても困る。

しかし、それを聞いて少しほっ、とした。

“女子高生行方不明騒ぎ”が人間界で起こる心配はなさそうだ。


「あの…ウサギさんは、帰り道について心当たりはないの?」


すると少しの沈黙の後。

彼はわずかに口角を上げて私に囁く。


「…そう言えば昔、“ある噂”を聞いたことがあるよ。」


(“噂”…?)