「“エラ”…。」


「!」


リューイが、ふと私の名を呼んだ。

はっ!と現実に引き戻される。


「…もう、ここから出てもいいんじゃない…?」


「そ、そうだね…!」


促されるまま茂みから出ると、リューイはぱんぱんとズボンの土をはたき、私を見上げた。

そして、ぽつり、と呟く。


「…大丈夫?」


「え…?」


まるで、私の心の奥を見透かすような蜂蜜色の瞳。

リューイは、静かに口を開いた。


「…ウサギのことを信じてあげて。あの人は、悪役になる道を選ばなくちゃいけなかっただけだから。」


(…?)


目を見開くと、すっ、とリューイがぽつり。と続けた。


「…1時間。」


「?」


「エラが、アリスに戻るまで。」


「?!」


ばっ!と腕時計へと視線を落とす。

すると、その針は午後11時を指していた。


(ま、まずい…!ここでアリスに戻るわけにはいかない…!!)


すっ。


リューイが、私の側から離れて歩き出す。

戸惑いながら彼の背中を見つめていると、リューイは去り際にくるっ、とこちらを向いて口を開いた。


「…またね、エラ。君が笛を探している限り、きっと、すぐに会える。」