その時。

女性が、薔薇色の瞳をカッ!と光らせた。

憎悪に満ちた魔力が、ガーデンに広がる。


「…隠れたって無駄よ…?絶対探し出してやる…!」


ぞくり…!


全身の体温が下がった。

ゆっくりとガーデンを見回す彼女。

その視線は、確実にこちらに迫ってきている。

もう、逃れられない。


どくん!


と、緊張がピークに達した

次の瞬間だった。


ぐいっ!


薔薇色の瞳と目があいそうになったその時。

ウサギさんが、彼女の肩を抱き寄せた。

月明かりに照らされた2人の影が重なる。


どくん!!!


時間が止まった。

呼吸も忘れた。

強引ながらも、流れるように重なった唇。

2人の姿が目に焼きつく。

離れる2人。

キスの余韻に包まれる。


「───僕以外に興味でも?」


ウサギさんが囁くようにそう言った。

その表情は、私の知っている彼ではなかった。


「…めずらしいわね、あなたから口付けるなんて。」


「そんなことはないですよ。…さ、行きましょう。」


さらり、と彼女に答えたウサギさんは、コートを翻し歩き出す。

彼は、1度も私の方を見なかった。


コツ、コツ…コツ………


足音が遠ざかり、彼らの背中が見えなくなった瞬間。

体の強張りが、ふっ、と消えた。


(…今の……キス、だよね…?)


頭の中には、知らない顔のウサギさんが焼き付いて離れなかった。