するとその時。
女性が、するり、とウサギさんの腕に絡んだ。
艶やかな仕草に、どきん!と胸が音を立てる。
「…どうしたんですか?」
ウサギさんが、ぽつり、と口を開いた。
その瞬間。
彼女の薔薇色の瞳が、鈍く光る。
「…“女”の匂いがするわ。」
(!)
びくっ!
体が震えた時、女性は鋭い目つきでじろり、と辺りを睨んだ。
「…あの娘の…エラの魔力を感じるの…!」
(!!)
心臓が、ぎゅっと握られた気がした。
急に呼吸が浅くなる。
息を殺して身をかがめると、ウサギさんが冷静に口を開いた。
「“不思議の国の住人は、寿命以外で死んだ場合本の世界に閉じ込められて実体をなくす”。あなたは、それをよく分かっているでしょう?エラはもういない。」
「…いいえ!最近感じてたの。不思議の国に再びあの娘の魔力が生まれたって…!きっとエラは、私からあなたを奪おうと蘇ったんだわ!」
激しい感情を露わにする女性。
怒り、恐怖、悲しみ、そのどれを取っても言い表せないほどだ。
(“エラ”…?この女の人は、エラさんとも知り合いなの…?)