…コツ…
ウサギさんが茂みから離れるのと、ガーデンへ誰かが足を踏み入れるのは同時だった。
薄暗いバラ園の奥から現れたのは、すらりとした黒いドレスの女性。
その外見は息を呑むほど美しく、ガーデンに咲き誇る薔薇と同じ色の瞳がこちらをまっすぐ見つめていた。
「…誰と話していたの?」
女性が、艶のある声でそう尋ねた。
どうやら、ウサギさんの魔法のおかげで私とリューイの姿は見えていないようだ。
「独り言ですよ。他には誰もいないでしょう?」
ウサギさんは私の方を見ない。
優しげな表情のまま、さらりと嘘をつくウサギさんは、何を考えているのかさえ悟らせてくれなかった。
(あの女の人は、誰…?ウサギさんの知り合いみたいだけど…)
黒のドレスのスリットから、綺麗な足が見えた。
女の私でもぞくりとするほどの色気と気品を纏う彼女に視線を奪われる。
ウサギさんは、静かに彼女に声をかけた。
「笛は見つからなかったですし早く行きましょう。もうここに用はないでしょう。」
「えぇ…、そうね。」
ウサギさんが誰かに敬語を使っているのは初めて見た。
彼女とは、どういう関係なのだろうか。
どくどく、と心臓が音を立てる。
ウサギさんの魔力があるため気付かれないとわかっていても、体が動かせない。