…と、その時だった。


ぴくん!


ウサギさんが、微かにまつ毛を震わせた。

ふっ、とその場の空気が変わる。


(…ウサギさん…?)


彼は、ガーデンの外へ静かに視線を向けている。


「どうしたの?」


「いや、魔力を感じてね。…僕の居場所を勘付かれたようだ。」


ウサギさんの言葉に、ふっ、と伯爵の手下が頭に浮かぶ。


「まさか、悪霊たちのこと?こっちに向かってきてるの?」


すると、彼は「いや…」と、目を細め、すっ、と桜色の瞳を輝かせた。

彼の魔力で、ガーデンの脇にニセモノの茂みが作られる。

ウサギさんは、真剣なトーンで私に言った。


「アリス、リューイと一緒にここに隠れるんだ。今、“あの人”に君達の姿を見られるわけにはいかない。」


「えっ!」


トンッ、と背中を押され、言われるがままに薄暗い茂みに押し込まれる私とリューイ。


「ど、どういうこと?!」


「ごめん、アリス。説明してる暇はないんだ。」


桜色の瞳を輝かせたウサギさんは、すっ、と私から離れていく。

彼は、いつもそうだ。

肝心なことははぐらかして、私に踏み込ませてくれない。


“あんた、あの黒ウサギをあんまり信用しないほうがいいぞ。”


かつてのオズの声が頭に響いた。


“あいつは、何かを隠してる。…ただの“勘”だが…、俺はあいつを信用できない。”


「ウサギさん!」


別れる寸前、彼の名を呼んだ。

視線だけこちらに向ける彼。

私は、目を逸らさなかった。


「…ウサギさんは、何を隠しているの…?」


「!」


彼の桜色の瞳が、わずかに見開かれた。

静寂に包まれる中、ぼそり、と小さく答えが聞こえた。


「秘密は、人に言えないから秘密なのさ」


(…!)