「…アリス。笛が手に入らなかった代わりに、いいことを教えてあげる。」
ふっ、と顔を上げると、ウサギさんは静かに言葉を続ける。
「君がもし、笛の正体に辿り着いた時。きっとアリスの中には、何を尋ねるべきなのか迷いが出る。」
「え…?」
(“迷い”…?)
ウサギさんは、桜色の瞳を細めてそっ、と告げた。
「だけど君は、本当に知るべきことが何か、ちゃんと理解できる子だ。余計なことは考えずに、素直な気持ちに従えばいいんだよ。…ずっと、君がそうしてきたようにね。」
どくん、と胸が鳴った。
小さな動揺が生まれて、鼓動が速まる。
「…それ、どういうこと…?」
ぽつり、と尋ねると、静かなガーデンにウサギさんの声が響いた。
「“笛”を見つけただけじゃ、真実には辿り着けないってことさ。」
彼のどこか妖麗な笑みが月明かりに照らされる。
私には、ウサギさんの言葉の真意が分からなかった。
私が笛を求める理由は、“人間界への帰り道を探すため”だ。
願いはただ1つだけ。
迷いなど、生まれるはずがないのに。