(そうなんだ…!さすがウサギさん…!)
腹黒ウサギを見直して、羨望の視線を向ける私。
帰り道への不安が消えたのも、きっとウサギさんが一緒だからだ。
この人ならきっとどうにかしてくれると、心のどこかで頼っていた自分がいる。
その時、ふと頭の中で記憶のカケラが光った。
“俺には魔法が効かないからな”
オークションで笛を奪われて、犯人と対峙したあの夜。
ジャックの魔法から私を助けてくれたオズも、ウサギさんと同じことを言っていた。
「ウサギさんは、オズと同じ魔法が使えるんだね?」
「…!」
私の言葉にウサギさんは、ぴくり、とまつげを震わせる。
「…オズくんには内緒だよ?」
(え…?)
にこり、としたウサギさんは、そう言うと、ひょいっ!と私を抱き上げた。
「わっ…?!」
私を抱くウサギさんが思ったより“男の人”で、ドキドキする。
力強い腕は、どこか安心感があった。
「…帰ろっか、“エラ”。」
ウサギさんにその名で呼ばれると、他の人に呼ばれる時とは何かが違う気がした。
彼は、懐かしそうに、穏やかに…代わりなど無いというくらい愛おしそうにエラと呼ぶ。
しかし、その音の響きの中には、優しさで隠れるように“影”がまとわりついているように思えた。
…こうして、私たちの“不思議の森での騒動”は幕を閉じたのだった。