だから、まずは仕事で明地に認められたい。

いつも×ばかりの原稿に、赤がつかなかったら、その時は……。

バレンタインの今日、見てもらう原稿は、今までで一番力を入れた。


「どれ、見せてみろ」


会議室に入るやいなや、席に座った明地は手を差し出す。
円の手首など、簡単に一周して、長い指先は余るだろう。

明地の手は今、円の原稿しか待っていない。
その手が、いつか円に触れてくれたら……。


緊張で震えそうになりながらも、円は明地に原稿を差し出した。

グッと息を止めてから、思い切って吐き出す。


「課長……っ! もし……もし、バツなしだったら……っ!」
「ん?」


赤ペンで顎をつついた明地が、視線を上げる。

目が合っただけで、頭が真っ白になった。


「……あ……」
「……」
「……あの……その……は、花丸を、ください……」


言った途端に、泣きそうになる。

なにバカなことを言ってるんだろう……。
花丸って、小学生じゃあるまいし。


潤む目元を隠すためにうつむいても、明地がクスッと笑ったのが分かった。


「ああ、いいよ。お前の原稿、修正なしってこと、なかったもんな」


やっぱり、覚えられてた。
悪い意味で。

当たり前だ。
異動して1ヶ月余りだから仕方ない部分もあるとはいえ、他の社員に比べて格段に手を掛けさせてしまっている自覚はある。


本格的に緩んできた涙腺を引き締めようと、グッと唇を噛み締めた。