誰もいないはずの教室には、なぜか電気がついていた。

(あれ、誰かいるのかな)

不思議に思って入ってみると、

「あれ、荒川くんじゃん。何やってるの?」

「ん?勉強。家じゃ集中できないから。
宮城こそ教室になんの用?」

「私は教室にタオル忘れちゃったからさ。
取りに来ただけだよー」

私はそう言うと、自分のロッカーに入っているタオルを取った。

「そっか。部活、頑張れよ。
お前トランペットだったよな?」

「え?うん、そうだよ?」

内心、なんで知ってるの?とは思ったけど、私たち吹奏楽部は廊下で練習してるからそれを見たんだろうなって感じで、特に気にはしてなかった。

「宮城のトランペットの音ってなんかほかの人とちげーよな。なんかこう、芯があるっていうか、力強さもあるけど繊細なところがあるっていうか。だからすぐ宮城が吹いてるんだーって分かるんだ。」

荒川くんはそういった後で、

「まぁ、俺は音楽詳しくもねーし、吹奏楽部でもねーから。素人から聞いてって感じだけどな。」

と、微笑みながら言った。

確かにそうかもしれない。
荒川くんは音楽のことも全く知らない、吹奏楽部でもない、ただの素人かもしれない。


でも、なぜだろう。
荒川くんから言われたことは、私の胸にとても響いた。
吹奏楽のどんなにすごい先生に言われた言葉よりも嬉しい。心から嬉しい。そう思えた。

「荒川くん、ありがとう。
私、これからも部活がんばるよ!」

私が微笑みながらそう言うと、

「おう!がんばれよ」

と、返してくれた。