ひょっとしたら、何かの他に隠れた策があるのかと訝った。


だがそれも、考え過ぎだったようだ。


スタートと同時に綱を引くと、始めこそ引き合っていた力も、片方の天秤に傾きだした。


「いいぞ‼︎もっと引け‼︎」


俺はそうゲキを飛ばし、自分も綱を引いた。


なんのことはない。


抵抗する力もないまま、先頭の奈々はもう半泣きだ。


ぐんぐんと紅の領域に白を引き込む。あと少し。デッドラインに奈々の足先が迫る。


拍子抜けしたのは確かだか、勝負を捨てたのか、配置換えが裏目に出たのか?白組のトリを務める立花薫という岩を、動かすことこできた。


もうあと数cm。


俺たちの誰かが足を滑らせない限り、ここから大逆転はあり得ない。


慎重、かつ大胆に綱を引く。


「もう少しだ‼︎」


奈々の顔が引き攣る。


自分の足元を見たからだ。


電気が走る衝撃に、身を竦(すく)めたのが分かった。


そして__。


「きゃーあああぁぁぁ‼︎」


大きな悲鳴を上げ、奈々とその後ろの明日香が綱から手を離した。


勝った。


申し訳ないが、また投票してもらうしかない。


恐らく、目の前の清水奈々が落とされるのではないか?


俺は一つ息をつくと、後ろに倒していた体を起こした。


「すまない」


そう、奈々に謝りながら__。