道向かいに
牛丼のチェーン店が有る。

その男と若い刑事は
店に入った。

朝飯のラッシュが過ぎ、
店内は空いていた。


「ギガ盛りで?」

「うん。」

若い刑事は
バイトの兄ちゃんに
ギガ盛りと
大盛りを注文する。

「あ、卵付けてね?」

「…で、早速ですが。
お話、聞かせて下さい。
只の事故とは思えない、
遺体は社会の窓から
局部が、…事件の可能性が
有ります。」

「事件じゃ無いね、
事故だよ。」

男はそう言いながら
ギガ盛りを
店員から受け取る。

…牛丼屋は仕事が早い。

「え?どうして、
そう言い切れるんです?」

割り箸を男に渡しながら
若い刑事は聞く。
勿論、ボイスレコーダーを
ONした。

「鈴木さんはね、
脚立に乗って、
上向きで溶接してたんだ。
もう少し高い脚立か
高所作業車なら良かったんだ。
あの脚立じゃ高い場所の
仕事は天端に乗っても更に
上向き作業になる。
ま、ある意味
仕方が無いんだけどね。」

牛丼を掻き込みながら
男が言う。

「…ある意味、
仕方が無いとは?」

「現場は事故防止の為に
高い脚立は
持ち込み禁止なんだ。
あの脚立は6尺、つまり
高さ1800ミリ。一階の
エントランスホールで
二階の床下までってゆーと
少し高さが足りない。
多分、鈴木さんは脚立の
天端に立ち、手を伸ばしての
上向き作業になる。」

「そこまでは、僕と警部も
推理しました。」

「問題は、鈴木さんが
上向き溶接をしていた、
これなんだ。」

男は口いっぱいに牛丼を
ほうばると口を
モグモグさせて
暫く黙り込む。

そして作業服の袖で
口を拭く。

袖口が黄色く、
…卵色になった。

若い刑事がナプキンを渡す

「上向き溶接が??」

「うん。
君は溶接の経験なんて
無いよね?あれね、
…要するに
鉄と鉄を熱で溶かして
くっつける訳だから、
溶接時に発生するスパッタ
つまり火の粉はね、すげぇ
高温で暑いんだお?」

「何となく解ります。
大体、何度ぐらい
有るんでしょうか?」

「知らんわ、そんなん。
でも馴れた職人なら
いざ知らず、例えば君なら
あぢーあぢーって
大騒ぎかな?笑」

そう言いながら男は笑い、
コップの水を
一気に飲み干した。


この細い体のどこに
ギガ盛りの牛丼は
吸収されるのだろうか。

…早食い過ぎる。

(ぁ、、よく噛んでね?)

心配しながら若い刑事は、

「溶接の火の粉が熱いのは
よく解りました。
で、貴方の推理は??」

男は更に
牛丼を掻き込みながら、

「溶接時にね、
…んっ、けほけほっ、う、、、
…あ、あんまり
溶け込ませ過ぎると
鉄が溶け過ぎて、
小さな玉に
なって落下する。
これは火の粉なんか
問題じゃないくらい熱い。
鈴木さんは上向き溶接中に
その溶接の玉が首から
入ったんだと思う。
鈴木さんの作業服、
少し首が広かっただろ?」


そう言えば被害者の服は
職人がよく着ている
ハイネックシャツでは
無かったな、と、
若い刑事は思った。

「首から入った溶接の玉の
熱さに、慌てて脚立から
降りたんだ、きっとね。」

「成程、で、熱い熱いと
歩き回る?」

「うん。溶接の火傷で
一番多いのは指先さ。
思わず指をくわえて
ちゅうちゅう吸うよ。笑」

「え?」

「鈴木さんの首から
入った溶接の玉はね、
ズボンのベルトでは
止まらずに
パンツの中まで進入した。
運の悪い事にね。笑」

「え?どうゆう事?」

「首から入った溶接の玉は
普通はベルトで止まる。
ベルトがお腹を
締め付けてるからね。
俺なんか、お腹、
火傷だらけだよ?見る?」

そう言いながら
男が立ち上がりズボンの
ベルトを緩め出すのを
制して、、、

「あ、いや、
脱がなくても結構です、
…成程…、
するとパンツの中まで
進入した溶接の玉は…。」

「そう、ちんちんを
…火傷させる。」

「成程!!!
だから社会の窓から
ちんち、…局部がっ!!」

「うん。笑笑」

男はにっこり微笑む。

「でも、何故、後頭部を
強打したんでしょうか?」

「そこだよ、明智君。」

(は?明智じゃねーし!
名探偵にでも
なったつもりだな?笑)

「謎解きをお願いします。」
若い刑事は
男に合わせてやった。


「多分、だよ?
ここからは完全に
俺の予想だからね?」

そう言いながら
男はタバコを取り出す、

「店内禁煙、
…みたいっすよ?」

「ちっ。まあ仕方がねーか、
でね、
鈴木さんは、きっと、
あまりの熱さに、
ちんちんを
しゃぶろうとしたんだ、
指先を火傷した時の様に。」

「…えっ?!」

「マジで。
パニクった時は人間、
何をし出すか解らない。」

「マジで?」

「俺も経験有るから解る。」

男は遠い目をした。

(え?
ちんちん火傷の経験が?
それとも、しゃぶろうと
した経験が?)

若い刑事の疑問顔に
気付かずに男は続ける、

「でも、前屈みになって
しゃぶろうとするけど
届かん、そこで鈴木さんは
…考えた、スマホで
えちな画像を見て、
少し大きくすれば
届くんじゃないかと。」

「それで
スマホが落ちてたんだ!
でも、大きくしたら
それだけ火傷の傷口も
拡がって、余計に
痛いんじゃ?」

「でも、
そうするしか無かった。
やむにやまれぬ気持ち、
…解らんでも無い。」


そう言って
男は目をつぶる。
何かを思いだすかの様に。


「…届いたんですかね?」

「届かなかったと思う。
必死になって前屈みに、
何回かトライした、
…その時!!」

「その時?!」

「勢い余って、空中前転、
つまり宙返りして
後頭部を強打したんだ。」

「………………………。」

「仲間内では、これを
しゃぶろうとして宙返り、
…と、呼ぶ。」

(仲間内って????
しゃぶろうとして宙返り?
どっかで聞いた様な??)




暫く、ちんちんが続いた、
いや、
沈黙が続いた…。





後日、
鑑識から上がった報告は
正にあの男の
言った通りだった。

被害者の首筋から
下腹部まで
赤い火傷の筋がうっすらと
その筋は局部の先端まで
達していた。
溶接時の大きなスパッタが
通った跡だと思われる。

被害者のパンツの中からは
幾つかの鉄粉が
発見された。

更には被害者のスマホには
いわゆるエロ画像が…、
これはロックの解除に多少
手間が掛かったらしい。

そして被害者の頭部付近の
床に、強く蹴りあげた様な
足跡…、
これは被害者の靴跡と
一致した。




事件は
事故として処理された。