適当に座って、とソファを指している。


「いえ…素敵なお住まいだなぁ、と」

「そう?」

「はい、ドラマとか映画に出てくる部屋みたい。こういう所に住んでみたいです」


「職場に近いから住んでるだけだし」

 これだけの絶景を独り占めしているのに、それには興味がないようだ。
 

 沸き上がった興奮を鎮め、美桜が口を開く。


「それで、何の呼び出しですか」

「ミーティング。夜の方が冴えるから」

 何か飲む? と司はキッチンに向かう。


「ミーティング? これからですか?」

「そ、これから」

「明日じゃだめなんですか」

 緊急の呼び出しかと思い、急いできたが司の部屋でミーティングとは予想していなかった。


 司はタンブラーを二つ取り出しながら訊く。


「明日がいいの?」

「急ぎでなければ…終電の時間もあるし…」

「あ、もしかして、さっき電話した時騒がしかったけど、彼氏とデート中だった?」

「え?」


 唐突の質問に、うまく切り替えしが出来なくなる。


「ちがいます、同期の子と飲んでただけで…」

 ああ、そう、と司は背を向けてキッチンに並んだリキュールを覗いている。

 質問しておいて、聞く気がないのかと美桜は少しむっとした。


「フラれたばっかだっけ」

「え?」

「何でもない」


 司はウォッカ一本取り出すと、氷を入れたタンブラーに注いだ。
 
 そこに薄黄色のジュースを足し、手早くマドラーで揺らす。
 
 慣れた手つきは、作り慣れているせいだろう。


 流れるような所作に少しだけどきりとしてしまう。

 会社でパソコンに向かっている姿からは想像できない、完全にプライベートな一面だった。