司は緩く髪をかき上げながら中へと進んだ。


 シャワーを浴びたのか、首にタオルをかけ石鹸とコロンの香りを漂わせている。
 
 グレーのパーカーにジョガーパンツとラフな格好だがセンスのいい着こなしは、また学生の読者モデルを思わせる。


 長い廊下の途中に二つほど部屋があった。

 1人暮らしには十分すぎるほどの空間。
 
 奥は広々としたリビングで、シンプルで重厚感のあるソファが柔らかそうな絨毯の上に置いてある。

 そこには無造作に雑誌や資料パソコンがテーブルに置いてあるだけで、全体的にものが少ない印象だった。
 
 白を貴重にした解放感のあるアイランドキッチンも使った形跡が薄い。


 ここはモデルルームだろうかと思うほど、全く生活感を感じさせなかった。


 目の前の大きな窓からは、シンボル的タワーのイルミネーションが見えた。

 その下には、ジュエリーのような夜景が広がっている。
 

 なんて贅沢な景色だろうと、美桜は驚きを隠せずに立ち止まる。
 

値段のいいレストランにでも行かなければ見られないようなこの景色を、司は毎日見て過ごしているのかと思うと、自分とは違う世界の人に思えた。



「何突っ立ってんの」