姉は相変わらず夜遅くまで勉強している。まだ俺を救いたいと思ってくれているらしい。ありがたい事だ。だけど俺はそんなことどうでもよかった。今年がその、余命を宣告されてから5年だからだ。
俺はもう死ぬんだ。今年中に死ぬんだなって考えると何もかもどうでもよくなった。最近は頭が痛くなるのに加えて気持ち悪くなるから辛くて辛くてたまらなかったが、変わらず学校だけは通うようにしていた。
みんなに無駄な心配かけられないからな。俺はそれしか考えていなかったのかも知らない。こうしてやっている勉強も俺は何にも役に立てずに死んでいくんだなと思うと少し寂しくなってシャープペンを置いてしまう。
「誠、もう寝なさい。」
「うん」
姉は変わらない。俺も変わらないまま死んで行ければな、と願うばかりである。そして今日が終わるから、生きた印をここに。
引き出しに入れてある分厚めの本を手に取った。姉から五年前、渡されたものだ。俺はあれから一度もこれを欠かしたことは無かった。
抗癌剤治療の影響で抜け落ちた髪の毛も今では生えてきている。薄琥珀色の髪の毛は俺の生きた印だ。
ありがとう姉貴。ありがとう、世界。
目を閉じて、死ぬのを待つだけだ。明日まで生きていられるか、俺は毎日不安になる。だけど暗く考えてはいけない。病は気からをポジティブに考えようと現実逃避をした。

目を開けるといつも通りの朝が来る。少し寒い朝。冬に近づいてきている証拠だ。それが少し嬉しくてウキウキしながら起き上がる。
クローゼットからマフラーと手袋を出し、制服の近くに置いておいた。姉貴はまだ来ないしゆっくりしててよさそうだ。なんて考えていると姉が忙しそうに階段を駆け上がってきた。
「ごめん!寝坊した!急いで用意して」
姉は割烹着のまま急いでリビングに向かった。俺は少しため息をついた。やっぱり姉貴だな。と思いながら急いで用意をした。

やっぱり今日は寒かった。息が少し白い。手が悴んで震えている。俺の長い髪が耳を守ってはくれるが髪すらも冷たくなっている。
「あ、誠。こんな時間に投稿して来るんだね」
「姉貴が遅刻しちまって」
マフラーに顔を埋めて少し温もりを探した。

教室につくとモワッとした熱気が俺を包んだ。いつもの席に座って本を読み始めると隣のやつから今日教科書忘れたら見せてくんない?と頼まれ、了承した。
おらは真面目に授業を受けている。病気持ちだからとかそんな理由でサボったりはしない。授業中、頭痛が襲っても保健室に行ってサボることもなければそんな思考にすら達しない。俺は真面目に、行きたいんだ。
ずるはNGだ。どんなに辛くても姉貴も頑張ってんだから俺も頑張らなくちゃ。俺はそんなことを考えながら本を読んでいた。
「また本読んでやがる」
「面白いぞ、この本。」
「なんのために読んでんだ?」
「…生きた印のため、かな」
は?と首を傾げまた何か騒ぎに行った。俺は何も気にせず何も考えず文字の羅列を読み続けた。勿論、内容なんて全く入ってこなかった。