故郷の空も敵国の空も、分け隔てなく、切れ間なく繋がっている一つの空。

愛する人が眠る大地も、愛する人の命を奪った仇が住まう大地も、途切れる事なく繋がっている二つと無い大地。

貿易船と密輸船に身を隠して、私が敵国に足を踏み入れたのは、母国の城が陥落した日から数えて7日目の朝だった。

敵国の王子への嘆願書を胸に携えて、寒さに震える、やせ細った身体で灰色の空を見上げれば、小さな綿雪がそっと舞い降りて行き場の無い、この枯れ果てた心に冷たく沁み入った。

敵国の襲撃は母国の民から尊いものを奪い尽くした。

家族のあるものからは家族を、恋人のいる女からは恋人を戦士として奪い、その戦士達からは、帰るべき故郷を奪った。

奪うものがない貧しい者からは、彼らの命を戦火の生け贄とした。

私は、家族と故郷と、そして、声を奪われた。

100年に一人の歌声と称賛された私の声。

命とも代えがたい宝を奪われた今、亡骸のようなこの身で、これからどう余生を過ごしていこうか?

女の身体を使って生きていこうか?

そんなの、女なら誰にでも出来ること。

夜な夜な名前も知らない男を自分の身体へ迎え入れる。

糧を得て、それが自分の髪や唇や肌になったら、また数多の男達に慰みものとして抱かれるーー。

人生や生涯と呼ぶには、あまりにも悲惨で過酷な命の営み方だ。