「俺たちが初めて会ったのも、去年の今頃だったな」

「そっか。もう一年も経つんだね」

繋いだ手が、二人の間で揺れる。

「あの時結々は、俺の写真を気に入ってくれたみたいだったけど。今撮る写真はあの頃のものとはずいぶん変わったと思うんだ」

「あの写真を見て私が惹かれたのは、あれに写った寂しさみたいなものに共感したからだと思うの。でもね、葵と一緒にいるにつれて写真の雰囲気もどんどん変わっていったでしょう。だから私分かったの。葵が撮る写真は、その時葵が見ている景色の色が写っていたんだね」

結々はにっこり笑って、葵の方を向いた。

「私は今の葵の写真も大好きだよ。だってとっても幸せな色をしているから。どんな葵も好きだけど、幸せにしてる葵が一番大好き」

葵はまぶしそうな目で結々を見つめ返す。

「これから写真に写る景色は、俺だけが見ている色じゃないよ。結々も一緒に見ているものだ」

結々はうん、と頷き返した。その笑顔にも幸せな色があふれている。

「これからもいっぱい、写真を増やしていこうね」

緩いカーブに沿って一本道をゆっくり歩いてゆく。広いグラウンドを囲んでいる散歩コースは、そろそろ一周まわり終えようとしている。

と、最初のベンチが見えてきたころ、結々が突然弾んだ声を上げた。

「あ! 猫!」

一匹の白猫が二人の少し先に座っている。

こちらに気づいて向けられたまんまるの目が愛らしい。

結々はぱっと顔を輝かせると、一人走り出してしまった。

つないでいた手がするりとほどけて、彼女の温もりだけが手のひらに残る。

それにふと不安を覚えて、慌てて結々の後ろ姿を目で追った。

葵が立つ少し先で、案の定猫に逃げられてしまった結々が残念そうな声を上げている。

そのあどけない姿に先程までの不安もすっかり消えて、思わずふっと微笑んでしまう。

……大丈夫。

彼女はちゃんとここにいる。

「結々!」

すがすがしく晴れ渡った声が、愛しい名前を呼ぶ。

驚いてこちらを振り返った結々は、しかし次の瞬間、あふれんばかりの笑顔を顔いっぱいに広げた。

葵は手に取ったカメラをゆっくりと掲げる。

きらきらとこぼれるその笑顔が、シャッター音と共に永遠となって残った。(完)