けれど次に続く言葉は口に出すにはあまりにも悲しくて、結々はためらいに何度も口を閉ざす。

それでも、思い切って言った。

「藤宮先輩。私のことを振ってください」

流れ落ちた涙が、顔をうずめた葵の首筋を濡らす。

葵が好きだ。

もう何度思ったかわからない感情を心に確かめる。

葵が好き。

けれど、晴那への想いゆえにした選択を、これから先引きずっていってほしくない。

今の葵は、結々が告白したころの葵とは違うはずだから。

これから好きになる人も、歩んで行く道も、全部今の葵が決めてほしい。

だから……結々は覚悟するようにそっと目をつぶった。

――と、耳元に微かな震えを感じた。

葵が、首を横に振っているのだ。

彼は物思うように一度動きを止めた後、もう一度決意するように首を振って、強く結々を抱きしめた。

「好きだ」

今、確かに、はっきりとそう聞こえた。

「好きだよ。好きだよ、鈴本さん。一緒にいる度に好きになっていくの、本当はずっと気が付いてたんだ。だから振ることなんてできない」

葵の口から出た思いがけない言葉に、そして本当はずっと聞きたいと願っていたその単語に、結々はもう何も言うことができない。

縋る様に葵に強くしがみついて、やっと声を押し出した。

「本当に? 先輩、本当に私のこと……」

「うん。好きだ……」

葵は少し体を離すと、結々の目をしっかりと見つめた。

「鈴本さんが言ったこと、これから全部本当にしていこう。いっぱい色んなこと話して、たくさんデートしよう。流行りのお店でご飯を食べたり、手を繋いで買い物したり」

結々は何度も何度も頷く。

葵の瞳には、もうあの雨の日のような脆さや陰りはない。

強い色を秘めて、穏やかに澄んでいる。