電車を乗り継いで見知らぬ駅に降りると、住宅街を真っ直ぐに抜ける。

そこから家と家の間を通って狭い石段を登れば、たどり着いた場所は開けた高台であった。

吹き上げる冷たい風が二人の髪をなびかせる。

そこはちょっとしたスペースになっていて、整備されていない広場という感じだった。

「ここね、俺と晴那の秘密基地だったんだ」

葵がゆっくりと歩きまわりながら言う。

「子供の頃、ここでよく遊んだ……」

確かに人の手の加わっていないこの場所は、子供にとってはわくわくするものだろう。

「俺の実家もここから見えるんだ」

先程通ってきた住宅街が眼下に広がっている。

葵はおもむろに鞄を探ると、ビニール袋に入れたスコップを取り出した。

「それは?」

葵は広場の端にある大きな木の根元にしゃがむと、結々を手招きした。

ここに来る前、葵が一度家に戻ったのはこれを取ってくるためだったのかと納得しつつ、結々は葵の傍らに立つ。

「十歳の時、ここにタイムカプセルを埋めたんだ」

足元の地面を掘りながら葵は言う。

「タイムカプセル?」

「晴那の発案でね。十年後のお互いに宛てた手紙を書いて、二十歳になったら一緒に掘り返そうって約束してたんだ」

十年前、タイムカプセルを埋めたのであろう小さな手が、今、大きくなって同じ場所を掘り返している。

たった一人で……

「今まで、何度も掘り返そうと思ったんだ。箱が見えるところまで掘ったこともあるんだ。だけど、どうしても開けることができなかった。手紙を見てしまったら、今度こそ本当に晴那のことを忘れなきゃいけない気がして」