「じゃあ、コーヒーとかも?」

「カフェオレなら飲めますよ。あと、紅茶ならストレートでも大丈夫なんです」

葵はブラックコーヒーが好き。

家庭科と歌が苦手で、カラオケも好きじゃない。

それから今日、マシュマロ入りの紅茶をおいしいと言ってくれた……。

新しく知った彼のことを、一つ一つ、刻み込むように心に呟く。

自分はあとどれくらいの時間、葵と一緒にいられるのだろうか。

そしてまだ知らない葵のことを、あといくつ知ることができるのだろう。

顔を曇らせる結々の耳に、その時、きゅるるるる、と頼りなげな音が聞こえてきた。

隣で葵がお腹を押さえ、ばつが悪そうな顔をする。

「へへ、なんかこの時間ってお腹空くよね」

振り向いた照れ笑いにつられて、結々も思わず吹き出してしまう。

「そうですね。私も、少しお腹空いちゃったかも」

ちょっと待っててください、と立ち上がると、押入れを開けて段ボール箱をごそごそとやる。

そこから出した袋ラーメンを二つ掲げて、得意げに葵の方を振り返った。

「この間実家が送ってくれたラーメン、すっかり忘れてました。一緒に食べませんか?」

「でもせっかくのラーメン、悪いよ」

「いいんですよ。ご飯は一人より二人です」

鍋に水を入れて火にかける。

つまみを回すチチチチチ、という音が静かな部屋に響いた。

「醤油ラーメンですけど、いいですか」

「うん。大好き」

「やっぱり夜食はラーメンですね」

「だね」

沸騰した水面がぐつぐつと波立つ。

「私は醤油も好きだけど、豚骨が一番好きかなあ」

「豚骨って、あの匂いがすごいやつ?」

「苦手ですか?」

ぱりっ、と袋の口を開くと、麺を熱湯の泡に落とす。

「うーん、あんまり食べたことはないけど、あの匂いはきついかな」

柔らかくなった麺を菜箸でほぐしていく。

「こっちの人ってみんなそう言いますよね。すっごくおいしいのに」

「おいしいの?」

「納豆が臭くてもおいしいみたいなもんですよ」

「そっか」

粉末スープを入れて、ぐるぐるとかき混ぜる。

「じゃあ今度、一緒に食べに行ってみようか」

二人分の器に移して、運ぼうとした途端、指先に感じた思わぬ熱さに思わず声を上げてしまう。