『藤宮君が事故にあったの。病院に運ばれたんだけど意識がなくて……』

走る結々には自分の荒い息づかいしか聞こえない。

心臓のドクドクという嫌な振動が、体中を小さく戦慄かせている。

頭の中ではさっきの先輩の言葉だけが何度も何度も響く。

『交差点で急に曲がってきた車と接触したみたいなの』

息が苦しい。

『病院、場所わかるよね? すぐに来て。早く』

大学の近くの病院に運び込まれたようだ。

今日葵は二年生全員で遊びに行っていたと聞いたから、多分その帰り道での事故だったのだろう。

結々はもう何も考えられず、頭によぎる嫌な予感を必死に振り払いながら足を動かした。

向かう途中、もう一度電話が入った。

三階へ来いとのことだ。

結々が駆けつけた時には、葵のいる病室の前にすでに人だかりができていた。

「結々ちゃん!」

結々に気づいた田村先輩が、こちらへ走ってくる。

「田村先輩! 藤宮先輩は? 無事なんですか?」

息を整えもしないまま、噛みつくような勢いで問うと、先輩は落ち着かせるように両の肩を掴んだ。

「落ち着いて、大丈夫だから。藤宮君、さっき意識を取り戻したの。それで、この空いていた個室に移されて……」

「無事……?」

彼は生きている。

途端、緊張から解放されて、思わずその場に崩れそうになった。

「よかった、ほんとに……」

ほっとして笑う結々に、けれど先輩は緊張したような硬い表情を向ける。

「でも、藤宮君……ちょっと、変なのよ」

「変?」

「私たちのこと、覚えてなかったの」