「先輩、何か飲みますか?」

空になった食器を洗い終えた結々が、隣で一緒に洗っていた葵に声をかける。

「あ、お気遣いなく」

葵が慌ててそう言うが、

「遠慮しないでください。紅茶でいいですか?」

結々は笑って戸棚からティーバッグを取り出した。

「本当は先輩、コーヒーの方が好きですよね」

「え?」

「だって先輩、いつも缶コーヒー飲んでたから」

茶葉と熱湯を入れてしばらくおいたポットを傾ける。

白いカップに、ルビーのような紅が天井の明かりを取り込んで揺れる。

「うん。ブラックコーヒーが好きなんだ。……あ、もちろん紅茶も好きだけどね」

何でも飲むよ、と付け加える葵の声を聞きながら、結々はこのまま葵が帰らなければいいのにと思っていた。

もちろん、泊まっていってほしいという訳ではない。

そんな事を言える立場でもないことは十分承知しているし、これはそんな野暮な感情を伴うものではない。

ただ、いつもより近くに感じる葵との距離感を、もう少し手放したくないだけだ。

ベッドに背を預け、二人横に並んでカーペットに座る。

まどろむようなゆったりとした時の流れに、ただ体を漂わせる。

両手で包んだティーカップに口をつけると、葵が小さくあったかい、と言った。

結々はよかった、と答えながらテーブルの脇に置いてあるかごに手を伸ばすと、マシュマロの袋を手に取った。

二粒手に取って湯気の立つカップに入れる。それは熱い紅茶の中にゆったりととろけて、ふわふわとした泡を作った。

「それ入れるとおいしいの?」

「甘くておいしいですよ。いつもこうするんです。先輩も入れますか?」

「じゃあ、一つだけ」

少し溶けるのを待って口をつけた葵は、とたん頬を綻ばせた。

「あ、おいしい」

「でしょ」

結々も自分の分を飲む。

砂糖とは違う、柔らかな甘みに結々はほっと息をついた。

「鈴本さんは甘いのが好きなんだ」

「はい。というより、苦いのが駄目で」