結々のアパートの前まで戻ってきたところで、葵が一つくしゃみをした。

「先輩、ごめんなさい。風邪ひかせちゃったかも……」

「いや、大丈夫大丈夫」

二人とも寒さに鼻が赤くなっている。

ヘアピンを探してうろうろとしていたから、随分と長い時間、この冷たさの中にいたことになる。

「あの、もしよかったら温かいものでも飲んでいきませんか?」

「いや、悪いし」

「一緒に探してくれたお礼です。夕ご飯も少しなら用意できると思うし」

葵は少しの間考え込むと、じゃあお言葉に甘えて、と笑顔を見せた。