その時、背後から聞こえた優しい響きに、結々は息の止まる思いがした。

信じられない気持ちで振り向くと、そこには先程別れたばかりの葵の姿があった。

「……先輩」

呟く声がかすれる。

見開いたままの目から、涙が幾筋も流れ落ちた。

「どうして……」

「さっき角を曲がるときに振り向いたら、鈴本さんがどこかに走っていくのが見えたから、気になって追いかけてきたんだ」

長く伸びた二つの影が、白い光の輪の中で近づく。

「どうしたの?」

熱くこみ上げるものが、体の奥で震えて声にならない。

結々はやっとの思いで息を何度も吸い込むと声を発した。

「先輩、私、私……先輩がくれたヘアピン、星のヘアピン……」

「落としたの?」

結々はこくこくと頷く。

強くつぶった目から涙がこぼれ落ちて、ぽつぽつと足元に跡を残した。

「ああ、それを探してたんだね」

「ごめんなさい」

「そんな、なにも泣かなくても。もう暗いし、とりあえず今日は帰ろう」

「だめです。私、あれを探さないと……」

結々は強く首を横に振って拒否する。

「また似たようなの探してくるから。だから、ね、戻ろう」

「駄目なんです。私、あれじゃないと……」

幼い子供をなだめるような葵の口ぶりにも、涙ながらにそう訴える。

他のものではだめなのだ。

あの星のヘアピンを見つけないと、葵との仲が今にも壊れてしまうような気がして。

葵は少しの間口を閉ざしていたが、やがてはっきりとした声で言った。

「分かった。一緒に探そう」

その言葉に結々はぱっと顔を上げる。

「とりあえず駅まで戻って、それで見つからなかったら、また明日にしよう」

葵の深い声が結々の気持ちをそっとあやして落ち着かせる。

結々ははい、と小さく返事をすると、気づかうような葵の後について再び歩き始めた。