葵とのデートは、こんな風ではなかった。

デートの誘いはいつも結々から。

電話どころかメールすらほとんどなく、たまに出かけては適当に入った店で食事をし、ぎこちない会話を交わすだけ。

確かに葵は結々に優しく接していたけれど、それは恋人になった義務のように、それ以上でもそれ以下でもなかった。

葵が写真を撮る姿を横で見つめながら、その交わることのない視線が悲しかった。

「そっか」

横でそれを聞いていた葵がにこっと笑う。

「楽しそうだね」

結々はもう一度泣いてしまいたかった。

嘘の思い出は口から出て止まらない。

結々はそれからもやけになったように話し続け、その度に葵は頷いてくれたのだった。


帰りの電車は、行きと同じように空いていた。

窓の外では、夜の蒼に飲み込まれそうな夕焼けが最後の光を放っている。

時折思い出したように話を振ってくる葵に応えながら、結々の心は沈んでいた。

自分のついた嘘が、鎖のように巻き付いて結々の体を締め付ける。

葵がせっかく今を思い出したいと向き合ってくれているのに、偽りの言葉でしか返せない自分が情けなかった。

葵が記憶を取り戻したら、さっきの話をどう思うだろう。

呆れて、離れていってしまうだろうか……少なくとも、今のままの関係でいられないことは確かだった。