一人帰る道、空を見上げれば、夕焼けの名残の茜が紺に掠れて消えていくところだった。

昨日二人で見た空とは、また違った色合いをしている。

……先輩も今頃見てるのかな。また写真撮ってたりして

景色は一瞬一瞬変わっていくから、というのが葵の口癖だった。

瞬くたびに移り変わっていって、そうして過ぎ去ったものは二度と見ることが出来ない。

だから写真に残すんだ、と入部してしばらくたった頃、話してくれた。

普段は控えめであまり自己主張をしない人だけれど、たまにぽつりぽつりとこぼす穏やかな言葉は、見栄や嘘で覆われない、彼自身の素のままのものだ。

それはいつも結々の心の奥底まで届いて、彼を好きという気持ちにじんと響く。

けれどそんな言葉の中にも、やはり見え隠れするのは悲しみや寂しさだった。

彼の絶望は、一体どこから来るのだろう。

何に、そこまでの絶望をしているのだろうか。

結々は軽く息を吸い込むと、瞬きをして移り変わる空を見る。

シャッターをきるような瞬きに、瞳の中の彩は彼の言葉通り、刻々と色を変えた。

と、その時、そんなゆるやかな空気を破る音が手元から鳴り響いた。

突然の電子音に慌てて鞄の中から携帯電話を取り出す。

そこに表示されていたのは葵の名前で、今まで思いをはせていたことを見透かされたようでどきりとしつつも着信ボタンを押した。

「もしもし、先輩ですか?」

「もしもし、もしもし結々ちゃん?」

けれど電話の向こうから聞こえてきたのは、うわずった女の人の声だった。

葵のものではない。結々は予想外のことに一瞬ひるんだが、携帯を耳に押し当てた。

「あの、藤宮先輩じゃ、ないんですか?」

「あ、私です、田村(たむら)です」

「田村先輩? どうして……」

声は写真部の二年生だった。

なぜ彼女が葵の番号からかけているのだろう。

「結々ちゃん、藤宮君が」

その後に続いた言葉に、結々は頭が真っ白になった。

世界が音をなくして、動きを止める。

耳元で先輩の声だけが震えて、気が付いたときには、結々は指定された場所へと駆け出していた。