深い蒼から緑、そして光を透かした透明へと何層も色を変えて、波が押し寄せてくる。

靴に砂が入らないよう気をつけながら、二人並んで波打ち際を歩いていた。

「ここには昔からよく来ていたんだ。ここから少し行った所にキャンプ場があって、仲がいいメンバーで遊びに来たし、晴那とも……」

そこまで言って葵は口を閉ざす。

そして様子をうかがうように結々の方を見るから、結々は少し微笑んで続きを促した。

その落ち着いた柔らかな笑みに、葵はまた話し始める。

「晴那とも何度もここへ来た。なんか女の子って、海好きだよね。よく来たがって……何をするわけでもないけど、二人で遊んだり、向こうのカフェでお茶したり……楽しかったなあ」

海を見つめるその瞳に儚い色が映りこむ。

それは繊細に揺らいで、じんわりと深い黒に滲んだ。

葵がぱっと顔を下げる。キラキラと海に反射する光の中、逆光になった葵の頼りなげなシルエットが、なぜだかとても切なかった。

許されるなら、結々は葵を抱きしめてあげたかった。

抱きしめて、一緒に声を上げて泣いてしまいたい。

けれどその衝動とは反対に、実際は手を伸ばして触れることさえ躊躇われた。

葵との間には壁がある。

こうやって二人で歩いて、笑いながら話せるようになっても、心のまま向かい合ってみれば彼は遠い人のままだ。

「戻りたい……ですか? その頃に……」

思わず、呟くように問うてしまう。

すん、と鼻をならした葵は顔を上げるとこちらをじっと見つめる。

と、静かだったその表情にさざ波が立った。

「……戻りたい」

こらえきれなかった涙が一筋、葵の頬を伝う。

「戻りたい。もう一度あの頃に戻りたい。そうしたら、今度は絶対に……」

葵の声がかすれて震える。

「絶対に……晴那を死なせたりしないのに」

冬空には雲一つなくて、遠く遠く、抜けるような青空だ。

引き結んだ結々の唇がほどけて、小さく声を漏らした。

強く張った瞳も、柔らかさに微笑んでいた表情も全てが崩れて、涙に頬が濡れる。

嗚咽をこらえて体が震えるたびに、葵のくれた星の飾りが、耳の横でちらちらと太陽の光にきらめいていた。