「今日行くところも、思い出の場所なんですね?」

「うん」

思い返してみれば、アルバムには海で撮られた写真が多かったような気がする。

水族館から始まって、プラネタリウムと続いてきた写真を辿る旅は、だんだん彼の記憶の濃い部分に近づいてきている。

思い出の多い場所は、楽しかった記憶と共に今の辛さを連れてきてしまう。

少し前なら目を背けていたであろう地へ自ら行こうというのだから、葵にとっては大きな進歩なのだった。




日曜日の電車は、まだ時間が早いこともあってかほとんど人が乗っていなかった。

空っぽの席に二人して腰掛ける。

電車の揺れに心地よく体が揺すぶられ、結々はぼんやりとしたまどろみに引き込まれそうになっていた。

「眠たい?」

隣でそう聞く葵も、とろんとした柔らかい色を瞳にたたえている。

「寝不足ってわけじゃないんですけど……私、乗り物に乗ると絶対に眠くなっちゃうんですよね」

「それはわかる。揺れてると気持ちよくなっちゃうよね」

「飛行機でもすぐ寝ちゃうから、前に修学旅行で海外に行った時も、目が覚めたらオーストラリアだったからびっくりしました」

葵がにこやかに目を細める。

「へえ、修学旅行海外行ったんだ。すごいね。高校の時?」

「はい、でも三日間もグループでファームステイだったからすっごく緊張しました」

「いいなあ。俺は北海道だったよ」