「そりゃ……告白したのは結々の方なんだし、いきなりラブラブというわけにはいかないだろうけど……。そんな深刻に考えなくても大丈夫よ。そんなのよくある初々しい悩みじゃない」

絵美の言葉に、少し心がほぐれる。

今感じている心配事も違和感も、絵美の言うように付き合いたての恋人たちが抱える一過性のもので、実は大した問題ではないのだろうか。

「そうかな、大丈夫かな」

「大丈夫よ。そもそも結々はもう藤宮先輩の彼女なんだから」

「そうだね」

絵美はその返答に満足したように頷くと、じゃあ帰りますか、と言って立ち上がった。

「え、帰るの? でもまだ何もしてないし」

「何もって、普段だって特に何もしてないでしょうが、このサークルは。一ヶ月に数回、ちょっと遠出して撮影会するだけだってのにこんな部室までもらえて、ラッキーよね、ほんと」

足元においてあった鞄を肩にかけて、絵美は続ける。

「特に今日は、うちの部の二年は休講だって言ってたから、待ってても誰も来ないよ。三年だって最近じゃほとんど来ないんだし」

「え、そうなの? 二年生今日来てないんだ……」

「そうよ、聞いてなかった? 今日はサークルの二年でどっか遊びに行ってるって。藤宮先輩も」

「そう……え、じゃあなんで絵美は部室に来たのよ。教えてくれればよかったのに」

「そりゃあ、あんたの話を聞きに来たのよ。部活以外じゃ昼休みくらいしか会えないし。じゃあ、またね」

ひらっと手を振って、絵美は廊下を反対方向へと歩いてゆく。

さらりと揺れた長い髪からただよう香水のいい香りだけが、まだ彼女のいた空間に残っていた。