上映開始のアナウンスに続いて照明が落とされる。

何も見えない目の前にぽつんと光の瞬きが見えたと思ったら、それは一瞬でドームいっぱいに広がって、椅子に座る二人を包み込んだ。

「すごい」

思わずというような呟きに隣を見ると、結々は口をぽっかりとあけて目の前の映像に見入っている。

その力の抜けた表情に葵が吹き出すと、我に返ったのか結々が口元を押さえてうろたえた。


日曜日だというのに、プラネタリウムには人が少なかった。

だだっ広い空間にぽつりぽつりと間隔をあけて数人座っているだけでほぼ貸しきり状態である。

一応周りの迷惑にならないようにと、葵は頬を寄せてひそひそと囁いた。

「いや、すごく感動してたから」

「だってこんなに綺麗だとは思ってなかったから、びっくりして」

目を丸くして結々が答える。

葵はそうだね、と言うとシートに深く沈みこんだ。

吸い込まれそうな星空に、二人はしばらく言葉を忘れてただ前を見つめる。

きらめきながら現れては消えてゆく季節の星座は、天井に映し出されているだけなのにまるで本当に遥か遠くの空を眺めているかのようだ。

夜の色にのまれて距離感をなくした体は、星空の間をふわふわと漂う。

葵がいる右側の、緊張して固まった体の力がふと抜けたのを感じると、結々はそのまま心地よい空間に身をゆだねた。


まだ時間も早いというのに、二人が外へ出た時にはもう、あたりの空気は淡く藍色に染まり始めていた。

夕焼けのオレンジが消えた空に、ひときわ深い色の雲が影を作っている。

葵は愛用のカメラを取り出すと、ファインダー越しに空を見上げた。

「日が随分早くなりましたね」

「もう十二月だからね」

言葉と共にシャッター音が響く。結々も葵と同じ方向を向いて呟いた。