「これはどこの写真ですか?」

「ああ、これはね、プラネタリウムだよ」

「プラネタリウム!」

驚く結々の反応が予想外だったのか、葵は首をかしげた。

「プラネタリウム、行ったことないの?」

「はい。地元にいた頃は家からずっと離れたところにしかなかったから」

「そうなんだ」

結々はそこであることに思い当たると、まるで重大発見をしたかのように笑顔になった。

「この晴那さんとのデート、先輩から誘ったんでしょ。プラネタリウムに行こうって」

「え、どうしてわかったの」

実際に見たことも行ったこともないけれど、そこはとても葵に似合うと思った。

満天の星を見上げるとき、彼はこの写真のようにわくわくとした表情をしていたに違いない。

結局あれからアルバムを見続け、そのたびに説明をもらい、気がつけば外はすっかり暗くなっていた。

送って行くと申し出た葵の横を歩きながら、家までの帰り道、結々は明日プラネタリウムに行ってみましょうと提案した。

「いいの?」

「私も一度行ってみたかったんです」

冷えて赤くなった指先が、二人の間でちらちらと揺れる。

「それに、私から言ったんですよ。先輩の思い出の場所に行ってみようって」

葵が記憶を取り戻すのはあの厚いアルバムに詰められた思い出をいくつ辿った時だろうか。

その時思い出すのは、晴那を失った当時の状況とその後の苦しみだけなのだろう。

今のまま立ち止まっても、歩みを進めて思い出しても彼の前には辛い現実しかない。

それでも記憶を開く時に今の思い出が、写真の地を歩いた自分との思い出が、少しでも葵の痛みを和らげるものになってくれれば。

純粋にそう願ってもやはりどこか残る痛みに、結々は息を吐き出す。

それは白く空気にかすれて、凍てついた空気に消えていった。