葵はこちらを振り向き、結々の本音を問うように目をのぞき込む。

「いいの?」

「もちろんです」

晴那のことを愛しげに話す葵に、傷つかないといえば嘘になる。

けれどそれ以上に、葵の大切な記憶を共有してみたいと思った。

そして、そうすることによってもしも何かが変わったとしたら、その時はあの写真に写っていたような葵の笑顔が見たい。

行こうか、と歩きだす葵の後について次のエリアへと進む。

ペンギンの泳ぐトンネルや、クラゲが漂う幻想的な空間を通り抜けながら葵はぽつぽつと話し始めた。

「晴那と付き合いだして初めて来たのがこの水族館だったんだ」

結々はただ黙って、葵の横顔を見つめている。

「本当はなんだか緊張して、魚どころじゃなかったんだけどね」

目を閉じると思い浮かぶ二人の初々しい光景に、結々はふふ、と微笑んだ。

きっとまだ恋人としてはぎこちなかった二人が同じ時間を共有したこの場所は、どこを歩いても思い出にあふれているのだろう。

そのまままっすぐ歩いていくと、そこは太陽のまぶしい屋外広場で、大きなプールを客席が囲っている。

「ここでショーをやるんだ」

見ると大きな看板には「イルカ・アシカショー」と書かれてある。

葵はそこで何かを思い出したのか、突然ふっと笑みをこぼした。

「ショーを見た時にさ、張り切って一番前に座ったもんだから二人とももうびしょ濡れになっちゃって、大騒ぎしたっけな。しかも晴那のやつ、周りの小さい子たちに負けないくらいはしゃぐものだから、俺も何に緊張してたのかわかんなくなっちゃって」

楽しげにそう話す彼は、目の前の誰もいない客席の中に、楽しかった日の面影を見つめているのだろう。