まだ少し眠たげに顔をこすっていた結々は、それに嬉しそうに笑った。

「朝ごはん、食べていって。何にもないけど……あ、昨日作ってもらったおかゆが残ってるね」

台所で鍋をのぞき込む葵の後ろに、結々が歩いてくる。

そして腕をつつくと、冷凍庫を指さした。

「あとりんご。凍らせたやつ。もう食べごろですよ」

嬉しそうに言う結々は無邪気な笑顔で、にこっと笑った。

おかゆの盛られた二つの茶碗に、うっすらと白い氷のついたりんご。

テーブルの上に並べられたそれらに目を向けて、そして向い合わせた葵をちらりと見上げる。

……なんか久しぶりだな

葵が記憶をなくす前、何度かしたデートで一緒に食事をしたこともあったが、やはりまだこんな場面は慣れなくて緊張は解けない。

葵は葵でどこか落ち着かない様子でおかゆを口に運んでいたが、冷凍りんごを口に入れた途端、その表情を少し明るくした。

「あ、ほんとだ、これ美味しい」

それを聞いて結々もひとかけら口に放り込む。

しゃり、と噛むと熱を持った舌の上にひんやりとした甘さが溶けて、口いっぱいに爽やかな香りが広がっていく。

「美味しい!」

結々も笑顔でそう答えると、葵はふっと微かな微笑みを見せた。

「笑った……」

久しぶりに見た葵の笑顔に、結々は思わずそう呟いてしまう。

葵はそれを聞いてしばらく物思うように黙っていたが、小さくごめんと口にした。

「どうして先輩が謝るんですか」

「いや、なんとなく。ごめん」

うつむいた葵に、結々は安心させるように優しく頷く。

「いいんですよ、そんなの。笑いたいときに笑えばいいんです」

気が付けばお皿の上のものはみんな無くなっていて、結々はそれらを片付けようと立ち上がる。

と、何気なく見た部屋の隅に段ボール箱が置かれているのに気が付いた。

ガムテープで何重にも固定されていたのであろう蓋がこじ開けられている。

その視線に気づいた葵は、それをたどった先にある物にああ、と言った。

「あれ、俺の実家にあったやつ。晴那の物が色々入ってたから、この前持ってきておいたんだ」

段ボールを引き寄せた葵は、ほら、と蓋を大きく開いて見せる。

結々は隣に座ると、その中をのぞき込んだ。