晴那はいつもそうだった。

突然料理を始めたと思ったらとんでもないものを作り上げたり、行ってみたいところができたと言っては葵を引っ張って電車で遠出してみたり。

幼い頃からのそんな二人の関係は、けれど決して嫌なものではなかった。

いつも突飛なことに振り回されては二人して怒られたり自分まで罰を食らったりすることが多々あったけれど、その度に葵はわくわくと楽しかった。

多分葵は好きだったのだ。何かを思いついた時、真っ先に自分のところに駆けて来て嬉しそうに耳打ちする晴那が。

飛び跳ねる度にぴょんと楽しげに揺れる晴那の二つに結んだ髪が。

そして、晴那自身が。

はじけるような笑顔も、自由奔放なところも、そのくせ涙もろいところも。

自分にとって当たり前だったそれらを愛しいと感じるようになったのは、いつからだったろうか。

幼い頃繋がれていた手は、小学校高学年になるにつれて恥ずかしさから離れていって、そうしてお互いの告白によってまた繋がれた。

付き合い始めたのは十四歳の夏。

付き合うということの意味すらまだよくわからない、一番近くてたどたどしく遠い、夏だった。

「葵!」

晴那の高い声が、いつも自分の名を呼ぶ。

葵を見つけては駆け寄ってきて、そうして葵の一番好きな笑顔で笑うのだった。

「葵、これあげる」

ある年の誕生日、晴那はそう言ってチェック柄のアルバムを差し出した。

「えっ、プレゼント? これ俺にくれるの?」

「だって葵、写真撮るの好きでしょ? だから私と出かけた先で撮った写真、それに入れてほしいなと思って」

照れながらそう言う晴那が嬉しくて、少しうつむいた晴那の頭をポンポンと撫でる。

「ありがとう。じゃあ俺が晴那の専属カメラマンになってやるよ」

少しふざけてそう返すと晴那もいつもの調子に戻って、上手に撮ってねと葵の腕を軽く押す。

「被写体がよくないとなあ」

「なによ。被写体が可愛いから腕が悪くても良く撮れるのよ」

ふざけあい、じゃれあいながらやがて手を繋いだ二つの影が夕焼けの中を帰ってゆく。