暖かいにおいがする。

バタバタという騒がしい足音とたまに何かを落とす大きな音に、ああ、晴那だなと目をつぶったまま口角を上げる。

晴那はいつもこうやって突発的に何かを思いついては騒ぎを起こすのだ。

……あーあ、今度は何をやってるんだ?

体が熱くて、力が入らない。

けれどふわふわと宙に浮いているような感覚は葵を暖かな眠りに引き込んで穏やかな気持ちにさせた。

トントントン、と何かを切る音に、料理をしているのか、とぼんやりとする頭のまま考える。

……この前食べさせられたやつはひどかったなあ。クッキーだっけ。全然クッキーに見えなかったけど

作ってみたから食べて、と差し出されたそれはラッピングこそ可愛らしかったものの、中身はひどいものだった。

いびつな形の硬く焦げたクッキーがごろごろと数個入れられていて、お世辞にもおいしそうだとは言えない。

「これクッキー?」

「クッキーでしょ、どう見ても」

そして一日かけてこれを葵のために作ったのだと少し恥ずかしげに言う。

「もういいよ、どうせ食べたくないんでしょ」

なかなか食べようとしないのを見かねたのか、すねたようにそっぽを向いて取り上げようとするから、慌てて葵はそれを取り返して一口くちに運んだ。

「おいしい」

ボロッと砕けるクッキーは口の中で苦味を増して、とてもその言葉とは程遠いものなのに、なぜか自然とそう言っていた。

それを聞いた晴那の嬉しそうな笑顔を、葵は忘れることができない。