葵のアパートに戻ってきたころには、すっかり夜も更けてしまっていた。

雨の中、しばらくそのまま立ち尽くしていた二人だったが、さすがにこのままではいけないと、結々が葵を引っ張って連れ帰ってきたのだ。

葵はもう抵抗する気力すらないというように、何も言わずに結々に従った。

同じく葵を探して足を延ばしていた要は、結々からの連絡にすぐに葵のアパートまで戻ってきた。

「今夜は俺が葵のこと見張っとくから、大丈夫だよ」

シャワーを浴びた葵が落ち着いているのを確認し、要は結々を送ると申し出た。

「いえ、いいです、一人で帰れます」

「何言ってんの。女の子一人で、こんな夜に危ないでしょ」

そう半ば強引に外に連れ出され、結々は今、夜の道を要と肩を並べて歩いている。

雨はだいぶ小降りになって、街灯を鈍く反射する水たまりに、小さな波紋を広げているだけだった。

「ごめんな、今日は。こんな夜中に」

「いえ、先輩が無事で良かったです」

二人ともうつむきがちに短い言葉を交わすだけで、多くをしゃべろうとはしない。

たまにふと思い出したように、どちらかが呟くような言葉を発するだけだった。

「あいつさ、痩せてただろ」

「はい」

「退院してから、ろくに飯食ってないらしい」

食事する気にもなれないのであろう、久しぶりに見た葵は、確かに少しやつれていた。

「藤宮先輩」

思わず呟いた彼の名は、ただ虚しく湿った空気の中に溶け込んでしまう。

そのまま二人とも何も話さず、ただ黙々と歩き続けるばかりだった。

……藤宮先輩は、死にたいって思ってるんだ、今……

こんな状況の中で、自分のことを気にかけていてほしいとは思わない。

ましてや、好きになってほしいなどとは望んでいない。

それでも、葵が生きていてくれて嬉しいと思う、ただひとつの想いでさえもいらないと否定されてしまったようで、それだけが辛かった。