上がる遮断機の向こう、線路を挟んだところに、葵はいた。

電車が通る前と同じ姿勢で、うつむく顔を濡れた髪に隠している。

結々は我に返って、葵のもとに駆け寄った。

「先輩! よかった、見つかって。探しましたよ」

そう言って葵の頭上に傘を傾ける。そうしてもなお、葵は押し黙ったままだった。

「先輩?」

この雨の中、ずっとここに立っていたのだろうか。

全身が重く濡れて、細い髪の先からは雫がぽつぽつと滴り落ちていた。

「先輩、ね、帰りましょう。このままじゃ風邪ひきますよ」

けれど葵はうつむいたまま目も合わせようとしない。

おろおろと戸惑う結々に、葵はぽつんと言葉をこぼした。

「死ねばよかった」

「えっ?」

雨の音が二人を冷たく取り囲む。

「俺もあの時、一緒に死にたかった……」

葵の声が震える。

肩を揺らして、唇をかみしめる彼は、泣いているのだろうか。

一つの傘の下、はみ出した結々の背中は、突き刺すような寒さに濡れている。

葵はそれ以上何も言わず、結々はただ黙って、葵に傘をさし続けるしかなかった。