過去四年間の記憶がないということは、つまり、今から四年後の世界に突然タイムスリップしてしまうのと同じことだ、と結々は思う。

もし自分だったらどうするだろう、と考えてみるが、周りの環境も友人もすっかり変わってしまっていて、おまけに恋人が亡くなっていたなんて自分なら耐えられない。

そんなことをつらつらと考えているのは、葵の様子が気になって仕方がないからだった。

結局、葵が退院した日から一度も会えておらず、かといって自分から会いに行く勇気もない。

二人になって何を話せばよいのか分からないし、そもそも晴那について落ち込んでいる今、結々と会うこと自体が迷惑かもしれないのだ。

……明日にでも、遠野先輩に聞いてみよう

つい先ほど、ぽつぽつと降ってきた雨は次第に大降りになって、今は窓ガラスを大粒の雫が激しくたたいている。

夜の静けさの中に響く音が強くなるにつれて、手のひらに触れるガラスが寒々と冷えていった。

とりあえず今日はもう寝ようと、着替えを取りに行こうとしたその時、テーブルの上に置きっぱなしだった携帯電話が震えだした。

床に落ちそうになるのを捕まえて見た画面には、要の名前が表示されている。

慌てて耳にあてると、要の焦った声が飛び込んできた。

「結々ちゃん、葵、そっちに行ってないか?」

「いえ、来てませんけど。そもそもしばらく会えてないし。藤宮先輩がどうかしたんですか?」

「あいつ、今家にいないんだよ」

壁にかけた時計を見やると、もう十一時を回ったところだった。出歩くにしては遅すぎる。

「えっ? でもいないって、どうして……」

「今日、晴那の墓参りをしてきたんだ」

続く要の言葉に、結々ははっとして耳を傾けた。

「葵が連れて行ってくれっていうんだよ。晴那の死がどうしても信じられないから、確かめたいって。それで俺と、晴那の母親と、あいつの三人で今日の昼間行ってきたんだ」

結々は焦る気持ちをなんとか抑えて黙ったままでいる。

「墓参りした後、なんか様子がおかしかったから心配になって七時くらいまで一緒にいたんだよ、葵の部屋に。それでさっき、なんとなく気になって電話かけてみたら出ないんだ。今あいつの部屋に来てみたんだけど中に誰もいないし、鍵もあいたままで……」