その日を境に、葵が発作を起こす回数は減っていった。

夢うつつだったとはいえ、晴那と話したことが彼の精神を安定させたのだろうか。

彼が見た晴那はいないのだという現実に、発作をひどくしてしまうのではないのかと心配していた結々は、それが良い方向に働いてくれたようでひとまず安心している。

元気のなさは相変わらずであったが、葵は身体的にどこも問題なく数日を過ごし、とうとう退院の日を迎えた。

「葵、本当に一人で大丈夫なのか?」

一緒に実家で暮らそうという両親の誘いを断り、一人暮らしのアパートに戻ってきていた葵に、要が問う。

「うん。実家に戻ると、一限目の授業に間に合わなくなっちゃうし」

心配そうに見る要と結々に、力ない笑みを向ける葵だが、そんな様子はかえって二人の不安を募らせるだけだった。

泊まっていってやろうか? となおも食い下がる要を制して、葵は家の中に入っていってしまった。

「大丈夫ですかね、先輩。いくらしっかりしているとはいえ、今は高校一年生なんですから」

「ああ、いくらなんでもいきなり一人暮らしっていうのもなあ。これからたまに様子を見に来るよ。ふさぎ込まないか心配だしな」

みんなの心配を遠ざけようとしている彼だから、今はあまり人と関わりあいたくないと思っているのだろう。

葵は、毎日見舞いに来ていた結々をどのようにとらえているのだろうか。

葵が事故にあったあの日、要が思わず「お前の彼女だ」と口走ってからは葵とまともにしゃべっていないし、もちろん自己紹介などもしていない。

今の葵は現実を受け止めるので精いっぱいであるし、自分を彼女だとはっきりと認識させて余計な混乱を招いてはいけないとわかっているが、自分をまるでいないもののように扱う葵に、やはり少し悲しいと思った。