細く小さい声は、細かく震えて夕日の中に溶けていってしまう。

葵は今度は泣きそうに眉を下げて、強く結々の手を握りしめた。

「晴那、晴那。もう、どこにも行かないで」

「……行かないよ。私は、ずっと傍にいるよ」

結々は両手で、葵の手をそっと包み込む。

葵の目には、晴那の姿が見えているのだろう。

柔らかく口元を綻ばせて、澄んだ声で言った。

「晴那。好きだよ」

静かな空気が二人を包む。

結々はしばらく何も言えず、ただ葵を見つめるだけだった。

茶色の瞳に夕焼けの光をくぐらせて、それはどこか透明に透き通って輝いている。

やがてそれがゆらゆらと滲んで、熱いものとなってつながれた二人の手に落ちた。

頬を伝う涙に、自分が泣いているのだと気づく。

「好きだよ。大好きだよ。ずっと、ずっと……子供の頃から、好きだったんだ……」

ゆるりと葵の瞼が閉じられて、すぐにゆったりとした寝息が聞こえ始める。

オレンジ色の光が蒼く深くなって、やがて完全な漆黒に閉ざされてしまっても、結々は彼の手を握ったまま声を殺して泣き続けていたのだった。