そう叫んで要の肩をゆすぶっていた葵は、やがて荒い息のままベッドから崩れ落ちた。

慌てて要が支えるが、そのまま床に座り込む。

と、ゼイゼイ音を立てていた葵の呼吸がだんだん切迫したものになっていった。

息苦しそうに胸を掴み、大きく口を開く。

「先輩!」

結々が声を上げたのと同時に、騒ぎを聞きつけた医師や看護師が部屋に駆け込んできた。

そのまま葵を取り囲んで、ゆっくり呼吸をするように指示する。

興奮のあまり過呼吸を起こしてしまったのだろう。

何もできない結々と要の二人は、その輪から外れた病室の隅っこで、ただ成り行きを見守っていることしかできなかった。




「ごめん」

俺のせいだ、とつぶやいた要は、さっきからずっとうなだれていた。

あれから何とか落ち着きを取り戻した葵は、今は病室でぐったりと眠っている。

残された二人はそのままそこにとどまっているわけにもいかず、病室横の休憩室へと移動してきたのだった。

「一体、なにがあったんですか?」

ためらいがちに結々は尋ねる。

目元を覆っていた右手を外して、要は結々の方にゆるりと顔を向けた。

「晴那は今どこにいるんだ、って聞かれたんだよ。今までずっとはぐらかしてきたんだけどさあ、もう誤魔化しきれなくて。晴那は三年前に死んじまってもういないんだって、言っちゃったんだ。それで」

葵はとうとう知ってしまったのだ。晴那がもう既にこの世にいないという事実を。

「俺、どう答えればよかったんだろう」

「でも、いつかはばれることだったんだし……そんなに思いつめないでください」

こんな事しか言えない自分を、結々は情けなく思う。

「これじゃ、三年前と同じことの繰り返しだよな。晴那が死んだ時と。いや、あの時よりもっとひどいか」

「目が覚めたら四年後の世界で、晴那さんも死んでいた、なんて。普通に死なれるよりずっと辛いかもしれませんね」

要は細く長い溜息をついて、ぐしゃぐしゃと髪をかく。

「俺、これからどうやってあいつに接したらいいんだよ。もうどうすりゃいいんだ」

葵の傷は深くて、それに気づくたびにどう動くことが正しいのか分からなくなってしまう。

どうすれば葵を今の状況から救えるのか、結々にはわからなかった。