そして結々にも食べるようにすすめる。

けれど料理に手を付ける前に、結々にはどうしても知っておきたいことがあった。

「藤宮先輩は、どうして私と付き合ってくれたんですか? 過去に戻りたいほど晴那さんをまだ好きなのに、なんで」

「だからだよ」

要は気まずそうにふいと顔をそむけた。

「あいつは大学生になって人付き合いもするようになったし、まああれでも昔にくらべればだいぶ立ち直った方だけど、ずっと晴那にとらわれたままだったんだ。そうこうしているうちに、結々ちゃんからの告白だろ? あいつ言ってたよ、誰かと付き合ってみたら何か変わるかもしれないって」

結々はただ次の言葉を待つ。

外の光もここまでは届かなくて、静かに灯ったオレンジの明かりだけが二人の顔を照らしていた。

「もちろん、全く気がない奴とはいくら何でも付き合ったりしないだろうから、まあ何かしら思うところがあったのかもしれないけど……言い方が悪いけど、あいつは結々ちゃんと付き合うことで晴那を忘れようとしたんだよ。でも、駄目だったんだな、結局。晴那を吹っ切ることなんてできなかったんだ」

晴那の話を聞いたときから確信めいたものはあった。

葵は結々を、亡くなった恋人を忘れるためのきっかけにしようとしたのだ。

けれどそれは裏目に出て、今こうして彼は過去に逃げ込んでしまっている。

受け入れて、自分の中に消化しきれなかった恋人の死から逃れることなど、最初からできるはずがないのに。

「ごめん……怒ったよね」

「いえ」

「じゃあ、悲しくなった?」

「少しだけ」

「あいつと別れたいと思う?」

静かに首を振る結々の瞳をのぞき込むようにして、要は今日最後の質問を投げかけた。

「葵のこと、好き?」

好き。その言葉が、様々な思いが渦巻く結々の胸の中で、ただ一つ凛と輝く。

「はい。大好きです」

多分この気持ちだけが、今の状況の中で結々を導く唯一の道しるべなのだろう。