「今日はもう帰った方がいい」

病院独特の、アルコールのつんとした匂いが漂う冷たい廊下に出るなり、要は言った。

そこで待っていたほかの部員達も、戸惑いながら二人のやり取りを見守っている。

「でも」

「あいつもあんな状態だし……。これから検査とかもあるから」

黙り込み、それでもなかなかその場を離れようとしない結々に、今度は頼み込むような声を出す。

「なあ、これ以上あいつを混乱させたくないんだ。とりあえず今日は……俺ももう何が何だか……」

そんな要に結々はもう素直に頷くしかなくて、小さく頭を下げて背を向ける。

立ち去る間際、細く開いたドアの向こうから聞こえてきた、

「晴那はどこ?」

という葵の縋るような声だけが、いつまでも耳に残った。