藍と紫が入り混じった、夜を迎える空はいつも哀しい色をしている。

葵はゆっくりとカメラをかかげると、その空を四角に縁取って静止の中に収めた。

ファインダーから目を離してもなおぼんやりと空を見上げ続ける葵のシルエットには、男性特有の骨ばったものはなく、どこまでも滑らかだ。

どこか遠くを見つめる葵(あおい)にふと心細さを感じて、結々(ゆゆ)は遠慮がちに彼の袖を引っ張った。

とたん、はっとしたようにこちらを振り向いた彼は、穏やかな笑みを形作る。

「あ、ごめんね、鈴本(すずもと)さん。もう電車の時間だし、そろそろ行こうか」

目があったことに恥ずかしさを感じ、慌てて視線をそらしながら結々は頷いて歩き出した。

もう今日で三回目のデートだったというのに、未だ結々は葵の言動一つ一つに動揺してしまう。

藤宮(ふじみや)葵。同じ大学の二年生で、結々の所属する写真サークルの先輩。四月に初めて会った時からずっと気になっていた。

入部後、改めてちゃんと話してみれば彼は見た目通りの優しい人で、結々が何かを問いかければその度に丁寧に答えてくれた。

けれど彼の結々への優しさはあくまで後輩に対するそれで、特別なものは何もなかったため、自分など眼中にないものだと諦めていたのだ。

積極的に話しかけるでもなく、ただひっそりと想っていただけだったのだから、気にもとめられないのが当たり前なのかもしれないけれど。

――だから夏休みが終わった後、玉砕覚悟で勢いのまま告白して、あの静かな表情のまま受け入れられた時にはむしろこっちが驚いてしまったのだった。

……なんか、いいのかな。私なんかが先輩の彼女で

鋭い風が、プラットホームのベンチに座る結々の体を貫く。十一月も半ばになって、風は日に日にその冷たさを増していた。

……先輩は、本当に私のことが好きで付き合ってくれているのかな? なんか……

寒さに身を縮こませ、考え込む結々に、その時ふっと影が覆いかぶさった。

顔を上げると、葵が缶コーヒーをこちらに差し出している。

「寒くない? 温かいの、飲むでしょ?」

「あ、ありがとうございます」

お礼を言って受け取る。

ぎゅっと握りしめると、手のひらから指先まで、微かにしびれるような温もりがじんわりと溶け込んでいった。

けれど少しうつむいて手元を見た結々の表情が、とたんに固まる。