なんでって、理由はたくさんある。
ずっとずっと片思いだった。
その2年間で、今井先輩を好きな理由なんか説明しつくせないほどある。
でも、そんなこと亮介に話す必要はない。
「別にいいでしょ、私のことは」
「じゃあ俺の理由も聞かないでよ」
だって、その頑張りは無駄になるのに・・・?
「頑張っても時間の無駄だから、私のことは諦めたほうがいいと思う。私は亮介のことは好きにならないよ・・・」
「諦めるかどうかを決めるのは俺でしょ。美奈子が今井先輩を好きなままっていうのと一緒だよ」
確かに同じ状況だから文句は言えない。
同じだから、もし本気なら辛いってことわかる。
だから、やめたほうがいいのに。
亮介が本気かどうかなんて、未だにわからないけど。
「俺さ、ポジティブだからこんな考え出来るのかもしれないけどさ・・・」
亮介は、いつになく真面目に考え込んで自転車に乗ったまま、うーんと唸る。
「美奈子さ、今井先輩のこと諦めらんないしどーすることも出来なくて辛いんでしょ?」
・・・私、それ認めてないんですけど。
「そんなこと一言も言ってないけど」
「ずっと見てたからわかるよ。辛くて悲しいんでしょ?じゃあ辛くて悲しくて一人より、辛くて悲しいけど二人、のほうがマシじゃねぇの?」
私の反論は無視なのね。
一人より二人、ね・・・。
一人より二人のほうがいいってこともあるって覚えといて。
そう言った真紀の言葉を思い出した。
「その一人が別の人を好きでも、マシなの?」
「少なくとも一人きりでいるよりかマシじゃないの?俺は、そう思ってるからこうやってしつこくしてんだけどね」
羨ましいくらいに前向きな考えなんだな。
ちょっと見習いたいくらいだよ。
「てゆーか、そうしてたらそのうち美奈子は俺のこと好きになると思うからやってんだけどね」
はじめは興味本位なのかな、とか考えてたけど亮介は本気なのかもしれない。
正直すぎて冗談に聞こえちゃうのか?
でも、なんとなく直球勝負の球を得意としてる亮介らしいと思った。
ほんとに、変なヤツ。
明日もしつこくするからー、とか言いながら帰ってったからには明日も何回も来るんだろうな。
「美奈子、それうまい?」
で、結局亮介は休み時間のたびにやって来て、今日は昼ごはんまで食べてるわけだ。
一緒に食べてる真紀は、亮介が持ってきたいちごミルクに免じて何も言わない。
「真紀、平然と食べてないでなんとか言ってやって」
「ん?いいんじゃない?貢ぎ物のいちごミルク、私好きだし」
「美奈子、また眉間にしわ」
持ってきたでっかい弁当を食べながら亮介が笑って言う。
わかんないかな?原因はあんただってば。
「あんたのせいなんだけど」
その言葉に亮介がさも嬉しそうに笑う。
「それは嬉しいな」
・・・逆効果か。
「ついに昼休みまでやってきて、次はどうする気?」
さすがにしつこいのもここまでだろうな。
うーん、と悩んで亮介がまさかの一言。
「そうだな。じゃあ次は、日曜日に美奈子のうちに遊びに行こうかな」
にっこり笑う亮介と、爆笑する真紀。
誰かなんとかしてよ、ほんとに・・・。
「強敵だねー」
「ほんといい加減にしてほしいよ」
「見てて飽きないなぁ」
手を振って教室を出ていく亮介に手を振り返しながら真紀が言う。
じゃあ帰りにねー、とか言いやがったからにはまた下駄箱のとこにいるんだろうな・・・。
「真紀、今日帰りってさ・・・」
「ん?面白そうだから亮介と帰んなさい」
やっぱりか。他人事だと思って・・・!
「でも、気が紛れていいでしょ」
「けど疲れるよ?」
「でも美奈子、前みたいに暗い顔してないし、いいことだよ」
暗い顔してる暇もないぐらい構われて困ってるんだけどね。
「ねぇ、なんか条件付きでとりあえずお試し的に付き合ってみたらどう?」
「お試し?!」
「うん、そう」
頷いた真紀の顔がマジだ・・・。
「でも、さすがにそれは失礼じゃない?」
「そうかなぁ。いや、ヤツはたぶん喜ぶね」
・・・そうかも。とか思ってしまう。
あの超前向きポジティブくんじゃあ、これもチャンス!とか言いそうだな。
真紀がくすりと笑った。
「なに?」
「いや、いつも余裕な感じの美奈子が年下くんと付き合ったらどうなるかなって」
完全に面白がってるな。
「面白がってるよね?」
「いやいや、年下くんの恋が上手くいけばいいなと応援してるだけだよ」
頑張ってる子は応援したくなるんだよ、っていかにもな感じで付け足して言ってたけど、絶対面白がってる・・・。
なんだかんだ言っても真紀には優しい彼氏がいるんだよな。
メールを返す横顔がさっきとは打って変わって優しい。
羨ましいな。
「いいな。そのメール、彼氏でしょ?」
「ん?うん、そう」
「自分だけちゃっかり幸せになっちゃって。いいなー」
「ん、大丈夫。美奈子のことは新米エースくんが幸せにしてくれるよ」
・・・まだ言うか。
「新米エースくんねぇ・・・」
条件付きで、お試し付き合い、かぁ・・・。
・・・よし、いない!
下校時間から1時間後、今日は練習もないしさすがに帰ってるだろうと思ったけど、読みどおりだったな。
下駄箱に亮介の姿はなく、久々に一人でのんびり帰れそうだった。
「ねぇ、そんなにあの人が好きなの?」
・・・誰かいる。
下駄箱の反対側から声が聞こえた。
話の内容的に修羅場っぽいな・・・。
そっと、靴を出して履く。
「里奈ちゃんには、関係ないでしょ」
靴を履く手が思わず止まった。
・・・この声、亮介だ。