自販機の前で安はキョロキョロ
周りを見回して

コイン投入口の横をドンと
かるくこづいた

パパっと選択ランプがつき

「好きなの押しなよ」

私は無糖コーヒーを押した

安はコーラのボタンを押した

自販機が古いのか、たたく場所によってランプが点いた

私もなんどもチャレンジしたが
一度も点いたことは無かった

その度に安は

「無理無理!年期がいるんだよ、俺以外は無理」

厳密に言えば犯罪だが
若い漁師は金の卵より
貴重だ、みんな知っていたが

たまにのむタダコーヒー
ぐらいでガタガタ言わなかった

「内田さん今日はいいゴミが出てるよ、虫が入ったカツオだけ10本以上あるよ俺いらないから全部もっていきなよ」

安が笑いながら言った

虫とは寄生虫の事だ
カツオは近海ものだと
凍らせないで港上げするので
寄生虫がいる

腹の中にいる
小さな白い奴じゃなく特大
の寄生虫を
虫が入ったと言っている

頭を腹あたりに突っ込んだ
小さなクラゲみたいな奴だ

そんなカツオ誰も買わないから
競りにもかからない

もちろん取ってしまえば
なんら問題は無いと言う
事だ

「ありがたく頂いていくよ、安はどーしてゴミもって帰らないんだ?」

「俺さかな大嫌いだから、男は肉しょ肉、俺親と同居だからもって帰ると親が食卓に出すから、だからいらないの」

まー
ミュージシャン目指して
るのだから別にいいか

「内田さんどーだい、金、遠征費たまりそうかい」

安が顔をのぞき込んできた

「いや、かなりきついよこんなんじゃ全然ダメだ」

安はコーラを一口飲んで

「だろーね、バイト毎日有ればいいんだけど、ここの所水揚げが落ちてるんだよね燃料も馬鹿みたいにあがったから出港しない漁船も増えたし、へたしたらこの漁港しめるかもしらないって。周り見て解るだろ?じいさまばかりだしね、金有れば俺マジかすんだけど、俺も金ねーし、みんなスタジオ代に消えるから」

安の気持ちがうれしかった
一緒に仕事して気が知れて
いたので本心から言っているのがわかった