「はい、二名様ですね!」



目の前に構えている不穏な建物に似つかわしくない明るい笑顔で、スタッフのお姉さんが切符を切った。



入り口からは、低音の不協和音が響いてくる。



「それではどうぞ、いってらっしゃいませー」



憎たらしいほど明るい声で見送られて。



「あ、綾月、待って」



入り口へ入った綾月を慌てて追った。




私が中へ入った瞬間に、バタン、と背後で入り口のドアが閉められる。



薄暗く、嫌な音楽が流れる細い道。



震える心臓に手を当てて、前に一歩進むのが精いっぱいだった。



「待って綾月……!」



進んでいこうとする綾月の背中に声を振り絞る。



妙に響いた自分の声がさらに恐怖を煽って、動けなくなった。





「悪い、苛めすぎた」



立ち止まった綾月が、振り返る。



薄暗い視界に、春木先輩に似た綾月の笑顔が映った。



「腕掴んでもいいよ」