「雪瀬!」



綾月の強めの声が、思考を遮った。



隣に目を向けると、眉根を寄せて私を見る綾月。





しまった。


私はまた、自分のことばかり考えて、自分の感情にばかり溺れて。



ごめん。



そう言おうと口を開きかけたとき。






「中三のときと同じ顔だな」







綾月の言葉に、吐き出しかけた息を呑んだ。



ドク、と脈が押し寄せる。





「あの時は俺避けられてたみてーで何があったのか話を聞くこともできなかったけど、今は違う」





優しく響いたその言葉が、体の奥の奥にある何かを強張らせた。




中三の時、私は綾月が好きで。



でも友達が――アヤコが、綾月を好きだったから。



ずっと痛む胸に気付かないふりをして、綾月を避けた。





それでも私は。

アヤコと綾月が付き合っても、卒業して会えなくなっても、ずっと綾月が忘れられなかった。



そういう優しいところも、私にはない明るくて社交的なところも、「雪瀬」って呼ぶ声も。




正直、春木先輩に惹かれたのだって、綾月の笑顔に似ていたからだ。



春木先輩に、綾月の面影を見ていた。






はずなのに。




いつからだろう。






「雪瀬」と呼ぶ高めの声よりも、「雪瀬ちゃん」と呼ぶ澄んだ声に心を揺さぶるようになったのは。



綾月とは違う、少し大人びた所作から目が離せなくなったのは。










綾月が隣にいても、春木先輩のことを考えるようになったのは。













「私は、」



私は、もう。



「本気、だった」



ちゃんと。