パッと振り返ると、不思議そうに私を見る春木先輩。



「何かあった?」



その視線が、さっきまで私の覗いていた棚の向こう側に移ってしまった。



「ん、あれは香恋? と、男……?」



春木先輩の顔が怪訝そうに歪む。



もしかして何か勘違いしたのかもしれない、と慌てて「あの、」と声を出す。



だけど、春木先輩はそんな私の声もよそに、まるで吸い込まれていくかのように、香恋たちだけを見つめて二人に近寄って行った。



やばい気がする。



胸騒ぎがして、春木先輩の後を追いかける。と。



「ん? 雪瀬じゃん!」



香恋と話していた綾月が、先に私に気付いた。



「あ、久し……いや、はは」



久しぶり、と言いそうになって、なんとか笑って誤魔化す。



たぶんそんなことには気付いていない香恋も、私に視線を向けて笑った後、その隣にいる春木先輩を見て「え、」と声を漏らした。



「香恋、その人は知り合い?」



春木先輩は、たぶん気になって仕方がない綾月のことを真っ先に尋ねる。



「うん、紫映の彼氏」



香恋が答えると、「あ、そうなんだ」 とホッとしたような春木先輩。



「紫映と春木先輩はどうして二人でここに?」



今度は香恋が、少し不安げに瞳を揺らして尋ねた。



これはもしかして、香恋も何か勘違いしているんだろうか。



「つ、ついさっきそこで出会ったの、偶然!」



弾き出すように説明すると、香恋は眉尻を下げたまま笑った。